※以下は、ブログ「世に倦む日々」http://pds.exblog.jpから、コピーしたものです。 鎌田靖のNHKスペシャル「震災4年 被災者1万人の声」 - 意義と限界 昨夜(3/8)、NHKで「震災4年 被災者1万人の声 - 復興はどこまで進んだのか」と題した番組が放送された。NHKが早稲田大と共同で3県の被災者にアンケート調査し、暮らしの実態や心身の健康状態を尋ねて1万人から得た回答を纏め、それに石巻を取材した映像を重ねた内容だった。キャスターは鎌田靖で、いつものNHKの上っ面を撫でただけでの震災報道ではない、中身の濃い内容に仕上がっていた。アンケートの結果は、ほぼ予想どおりのもので、7割近い被災者が生活に困窮し、先が見えない不安に苦しみ、長い仮設暮らしの中で心の病気を抱え始めていた。冒頭、被災者の一人がアンケートに寄せた記述が読み上げられ、52歳の女性の契約社員がこう訴えていた。「公共事業や企業の復興は見えるが、被災地の住民個々の復興は全く進んでいない。年月が経つに連れて個々の経済力、体力、精神力は衰えてゆき、元の生活を取り戻すことが難しくなっている現実を見て欲しい」。夏木マリと堤真一が交互に朗読する回答内容はどれも切実で、震災後に収入が減ったと回答した被災者が42%に及び、年収200万円未満の割合が震災前は22%だったのが、現在は38%に増えていた。家と会社を再建した石巻の事業者の事例では、売上が予想どおり上がらず、借金が増え、経営に行き詰まって懊悩する様子が生々しく紹介されていた。 震災から4年、今年も3.11の季節を迎え、マスコミが被災地を語る特集を伝えている。今年の報道は、どのテレビ局も決まり切ったパターンで、復興が進んだ女川町をトップランナーとして伝え、画期的な成功体験として大きく評価し、恰も他も見倣えと言わんばかりのメッセージで埋めていることだ。女川町の復興街づくりと福島原発の現状、この二つが定番コンテンツで構成されていて、発信するメッセージは同じ。どの局の説明も、順調に復興しています、順調に汚染水処理と廃炉作業が進んでいますというポジティブな報告に終始していて、政府がガイドラインとシナリオを用意した「震災4年」の総括が撒かれている。また、それは、東京からの被災地に対する現在の目線の反映でもある。マスコミの言葉に代表される政府と東京の目線は、このように、津波災害も、原発災害も、少しずつ復興が前に進んでいて、時間が経てばよくなるだろうという結論で、楽観的な見方を前面に押し出したものだ。政府に批判的とされるTBSのサンデーモーニングでさえ、女川町ばかりにフォーカスして楽観論に仕上げ、原発の事故処理はロボットなど新技術開発で世界に貢献するものだなどという展望で纏めていた。見ながら、呆れ果てた。東京から見た「震災4年」はこうなのだ。東京のマスコミにとって、東北の被災地はネタなのだ。 基本的に被災地に無関心なのであり、「順調に復興している」というイメージで意識を固め、アニュアルの3.11のイベント機会を通過したら、すぐに無視のモードに入るのである。関口宏も東京の人だった。その点で、さすがに鎌田靖の番組は他と違った切れ味があり、被災者の暮らしに正しく目を向ける編集になっていた。鎌田靖の誠実なジャーナリズムに救われる思いがする。だが、残念なことに、番組全体としてはこの特集報道は不十分だった。被災者の多数が生活に苦しみ、将来の不安に苛まれ、心身の健康を害している実態を、統計的事実で証明して正しく報告した点は素晴らしい。よくやったと拍手できる。アンケートの結果が示す現実を、個々の事例をクローズアップして追跡した一つ一つのカットもよかった。石巻の経営者夫婦の映像はとても印象的で、被災者の厳しい現実をリアルに映し出しながら、決して心が真っ暗に押し潰されるのでなく、何か微かにいい感触が残り、登場する人の姿に救いと共感の見心地があり、さすがに鎌田靖と「ワーキングプア」のスタッフの作品だと感心させられた。鎌田靖のドキュメンタリーには、こちらが感情移入できる一般人が登場する。見ているこちらが勇気づけられ、日本人に希望を感じる一瞬がある。「ワーキングプア」のときの、釧路のケースワーカーの映像などもそうだった。 番組を見ながら違和感を感じたのは、こうした「被災4年」の一人一人の現実が何によってもたらされたのか、何が問題なのか、その原因究明に迫っていなかった点だ。取材で明らかにした現実を社会矛盾(人災)として捉えず、解説を増田寛也に任せ、自然現象のように済ませてしまっていた点だ。被災者の置かれた過酷な境遇を見せながら、何も救済策や改善策について議論しなかった。こうした鎌田靖のドキュメンタリー番組は、おそらく昨年も制作・放送されていたに違いない。そのときもテーマとメッセージは同じだったことだろう。1年後の来年も、きっと鎌田靖は同じような番組を見せるのだろう。メッセージは同じで、被災者の絶望的な状況は撮りつつ、何が原因かの本質論は言わず、改善や救済の政策論は言わない。行政や政治の不作為について問題提起することをしない。ただ被災者の実態を見せ、国民に被災者を見守り続けるよう言い、被災者を励ますだけの、そういう番組が放送されるだろう。本来、ジャーナリズムがやらなくてはいけないことは、この4年間の復興政策の検証なのだ。4年間、政府はいったい何をしてきたのか、震災復興の方針や観点は正しかったのか、仮設居住者が4年を過ぎても8万5千人もいて、復興予算が大幅に余りながら被災地の学校建設が遅れているのはどうしてなのか、その中身を掘り下げて真相を抉ることなのだ。 3年前までは、鎌田靖はそれをやっていた。例の、復興予算の流用を暴露した番組は大きな反響を呼んだ。今、鎌田靖がそうした視角からの告発を番組にできないのは、安倍晋三が政権を握ってNHKの締めつけが厳しいからだろう。端的に言って、4年前の復興構想の時点で全てが間違っていた。復興構想会議も、復興基本法も、復興基本方針も、中身がなく空疎で、被災者の生活を再建したり地域のコミュニティを再生させたりするものではなく、官僚の省益拡大と学術官僚の名誉欲充足のためのもので、ゼネコンや大企業を儲けさせるためのものでしかなかった。初動に誤りがあったのであり、誰のための復興なのかという、復興事業のコンセプトが根本的に間違っていた。今日(3/9)の朝日の1面には、被災地自治体で人口減が続いている事実が示されている。震災前に比べ、女川町は29.1%、山元町は23.6%、大槌町は21.8%、南三陸町は20.8%、陸前高田市は16.1%と、人口が大幅に流出した。被災地の人口流出は震災直後から始まっていて、復興構想会議がちんたら議論をしている最中にも、警鐘を鳴らす声はすでに上がっていた。しかし、復興構想会議の提言には、被災地の人口を原状に戻すとも、被災前の経済規模を取り戻すとも、被災前の教育や医療のインフラ・ベースを保障するとも、国のコミットが示されてはいない。救済の契機はなく、基本的に自己責任論だった。 官僚は、高齢化と過疎化への対応で狙っていた地方の行政サービスのリストラを、この震災を好機とばかり、被災地をモデルにした形で重点化と集約化を徹底推進する構えに出た。あれだけ復興予算が未消化だと騒ぎながら、ハコモノのはずの被災校舎の再建が進まないのは、文科省が難癖をつけてわざと工事を遅らせているからであり、もうこんな土地には学校を建てるメリットはないと住民に示唆しているからに他ならない。昨日(3/8)の朝日4面を見ると、岩手県では被災した15の小中高校のうち13の小中学校が仮校舎や廃校利用のまま置かれ、宮城県では15の小中学校が仮設校舎のままだと書いてあった。4年も経って、あれだけ公共事業のバラマキ(第2の矢)を派手にやって、どうしてこんな不条理がまかり通っているのか。小学校の新校舎など、普通は1年の工期で建つものだ。本来、復興計画は住民本位で、住民が求める街づくりと暮らし方の絵があり、それに行政が予算をつけて素早くコミュニティを蘇生させるのがあるべき姿だった。被災住民の仕事と暮らしの支援が第一だった。人口を流出させないという決意と保障が必要で、必ず5年で経済規模を復活させるから、それまで何とか支援するから、不自由を我慢して地域を復興する主体になってくれと、そう住民に呼びかける構想が必要だった。政治家と政府がそうコミットしなくてはいけなかった。なぜなら、人口が流出したら復興事業など何の意味もないからだ。 4年後の今から振り返って、復興構想会議の提言を読み、その後の過程を眺めると、その拙さと本末転倒がよく分かる。復興構想会議が出したのは、上からの国土防災計画であり、被災地の人々の暮らしの再建計画ではなかった。学術官僚たちの関心は、大きな国土計画のプロジェクトに自分の(貧しい)アイディアを反映することであり、(何を勘違いしたのか、無能どもが)後藤新平のように歴史に名を刻む欲望であり、現業官僚たちの関心は、大震災後の復興という大義名分で予算をぶんどることに尽きた。それは、阪神大震災のときに官僚が味をしめたところの、昔取った杵柄ならぬ打ち出の小槌だった。結局、復興構想会議なり復興基本方針なりで柱となったのは、高台移転と防潮堤である。土木工事の話だけが主眼となり、地域経済や住民生活の再建は捨象された。一番肝心なところは抽象的な表現で曖昧にされ、具体的な政策構想にならず、被災者が必要とする資金も必要な時期に手当されなかった。グループ補助金の申請が窓口で却下されまくり、あるいは留保されまくって、待ちきれなくなって事業再建を諦めて土地を離れたとか、二重ローンに耐えきれずに破産したとか、そういう悲しい事例を、震災から1年の頃に鎌田靖が報道していた。その頃はまだ民主党政権で、鎌田靖も番組で政府を批判する余裕があった。高台移転と巨大防潮堤が柱となり、がれき処理ですったもんだし、アベノミクスの第2の矢で口実にされ、結局、4年間、復興は土木ばかりで終始した。 発想は土木のみ。動機は官僚の欲望のみ。この国の政治の不毛と精神の貧困に目眩がする。政治家が言葉を発すべきだと言ったジェラルド・カーティスの勧告は、最後まで無視された。 鎌田靖
by hanakirin_7
| 2015-03-12 11:06
| 東日本大震災
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